EPISODE 05

もう一期分、と言われただけで
報告書が全部やり直しになる

Excelで表を作り、Wordに貼り、PDFにして渡す。報告書づくりの定番です。提出したあとの「もう一期分あると助かるな」というひと言で、その定番が崩れます。足すのは数字1行のはずなのに、消えるのは半日。新人のあいがぶつかった壁を4コママンガでたどります。

中川 知裕
中川 知裕RECOG 代表社員(元証券アナリスト・宅地建物取引士)

あいが初めて任されたのは、取引先へ出す報告書でした。数字の表を入れて、PDFで。手順は先輩に教わったとおりです。Excelで表を作り、コピーして、Wordに貼り、PDFで書き出す。

シーン1:社長に頼まれた報告書をExcelの表からWordに貼ってPDFで提出したあい。「もう一期分あると助かるな」と言われ、表に1行足しただけで見出しが次のページへ送られて体裁が崩れる。その夜、深紫家の食卓で母が「一人分増えても作り直さないわよ。鍋からよそうだけ」と言い、あいが気づく4コマ

「おお、よくできてる。あ、もう一期分あると助かるな」——悪気はまったくありません。社長にしてみれば、数字を1行足すだけのお願いです。ところが、あいの画面では見出しが次のページへ送られ、体裁が端から崩れていきました。

「もう一期分」が、なぜ半日になるのか

やることは単純です。Excelに戻って前の期の数字を足し、表を作り直す。それをもう一度Wordへ貼る。それだけのはずでした。

けれど、表に1行増えると表そのものの大きさが変わります。縦に伸びた表は、うしろにある文章を下へ押します。押された文章は次のページへこぼれ、見出しだけがページの最後に取り残され、図は本文と離れ、ページ番号の位置がずれる。直すのは1か所でも、直った結果を受け止めるのは書類の最後までです。

私も会社員のころ、同じことを何十回もやりました。数字を足すのは1分で、そのあと体裁を直すのに午後がまるごと消える。あれは要領が悪いからではありません。道具がそういう作りになっているだけです。

貼った瞬間に、その表は切り離されている

もうひとつ、見落としやすいことがあります。Wordに貼った表は、もうExcelとつながっていません。

貼り付けというのは、その瞬間の見た目を写し取る操作です。写真を撮るのに近いと思ってください。撮ったあとで被写体が動いても、写真の中の人は動きません。同じように、Excelの数字をあとから直しても、Wordの中の表は貼ったときのままです。

だから2回目からは、必ず作り直して・貼り直すことになります。そしてそのたびに、さきほどの体裁の崩れがついてきます。1回目は「報告書を作った」仕事ですが、2回目からは「同じ報告書をもう一度組み立て直す」仕事に変わっている。見た目は同じ作業なのに、中身が別物になっています。

一度きりの資料なら、これでまったく問題ありません。貼り付けはいちばん速い方法です。つらくなるのは、同じ書類をくり返すときだけです。毎月の報告、四半期ごとの実績、年度の総括。くり返す書類ほど、貼り付けと相性が悪くなります。

シーン2:翌朝の事務所。机にノートPCと紙の資料を広げたあいが「わたし、報告書を毎回つくり直してた」とつぶやき、続けて「数字が鍋で、報告書はよそった皿…?」と気づく2コマ

前の晩、食卓で母が言ったのは、ただの台所の話でした。「一人分増えても作り直さないわよ。鍋からよそうだけ」——翌朝のあいは、それを自分の机の上で考えていました。

鍋と、取り皿

家で急に一人ぶん増えても、ふつうは料理をもう一度作り直したりしません。鍋から、もう一杯よそうだけです。鍋がそこにあるからです。

報告書も本当は同じ形をしています。数字が鍋で、報告書はよそった皿です。ところが貼り付けでやっていると、皿のほうに料理が直接くっついてしまう。人数が増えるたびに、鍋ではなく皿を作り直すことになります。あいが半日を失ったのは、まさにそれでした。

言い方を変えると、報告書は「作るもの」ではなく「出すもの」です。中身は別の場所にあって、報告書はその時点の見え方にすぎない。そう考えると、「もう一期分」はまったく別の意味になります。作り直す指示ではなく、出す範囲を変えるだけの指示になるからです。

「作る」をやめて「出す」にする

やることは2つだけです。

こうしておくと、期を1つ増やす作業は「どこからどこまでを出すか」を変えるだけになります。表の寸法は出すときに決まるので、うしろの体裁が巻き添えになりません。崩れるものが無いので、直すものも無いというだけのことです。

派手な話ではありません。会計ソフトや基幹システムを入れ替える、という規模の話でもありません。いま毎回貼り直しているその1枚だけ、出せる形に置き換える。それだけです。

シーン3:専用アプリの画面で期間を選び「ボタン1つ」で報告書を出すあい。社長が画面をのぞき込んで「もう一期分……って、もう出たのか?」と驚き、自席の専務が静かに微笑む3コマ

後日。社長がまた「もう一期分」と言いました。あいは画面で期間を選び直して、ボタンを押しました。「……もう出たのか?」——専務は、何も言わずに少し笑っていました。

何が変わって、何は変わらないのか

正直に書いておくと、これで報告書づくりがゼロになるわけではありません。何をどう見せるかを決めるのは人ですし、文章は相変わらず自分で書きます。

変わるのは、数字と体裁が別々に置かれることです。数字が増えても体裁は壊れず、体裁を直しても数字は動かない。この2つが絡まっていたから、1行の追加が半日になっていました。

そしてもうひとつ。「もう一期分あると助かるな」と言える空気が、そのまま残ります。頼むほうが遠慮しはじめたら、本当はそこがいちばんの損です。気軽に言えて、気軽に出せる。報告書まわりを整える目的は、結局そこにあると思っています。

よくある質問

Excelの表をWordに貼るのは、そもそもやってはいけないことですか?
一度きりの資料なら、これがいちばん速い方法です。問題になるのは、同じ報告書を毎月や毎期くり返すときだけです。貼った表はその瞬間の写しなので、元のExcelを直してもWordの中は変わりません。2回目からは必ず作り直して貼り直すことになり、その手間は回数ぶん積み上がります。やってはいけないのではなく、くり返す書類には向いていない、という話です。
「リンク貼り付け」にすれば解決しますか?
数字が自動で追いつく点は解決します。ただし表の寸法が変わる問題は残ります。行が増えれば表は縦に伸び、うしろの文章や図は押し出されるので、体裁はやはり崩れます。さらにリンクは元のExcelの置き場所に依存するため、ファイルを移動したりフォルダ名を変えたりすると切れます。相手に渡したあとで切れていることに気づく、という事故も起きます。手間の総量はあまり変わらないことが多いです。
毎回ゼロから作らず、前回のファイルを使い回しています。それでも同じですか?
使い回しは有効ですし、実際ほとんどの現場がそうしています。ただし減るのは文章を書く手間だけで、表を作り直して貼り直す手間と、そのあと体裁を整え直す手間は毎回そのまま残ります。しかも前回のファイルが出発点になるので、古い数字が1か所だけ残っていても気づきにくくなります。使い回しで速くなるほど、確認はしにくくなる、という面があります。

「毎月、同じ書類を組み立て直している」と思ったら

まずは、その報告書を見せていただくところから始められます。数字をどこに置けば出すだけになるのか、どこまでを決め打ちにして、どこを選べるようにするのか——あいの会社にしたのと同じように、30分の無料オンライン相談で一緒に整理しましょう。売り込みはしません。

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余談:あの晩の鍋は、しめの雑炊まで行ったそうです。鍋は、よそっても減りが遅い。 / 登場人物のことは こちら でも紹介しています。